探偵の思い出:若者は大人にあこがれ旅に出る。

これは昔の話です。

平成13年の秋、ホームページからの依頼です。

 

人探し

依頼内容

息子がいなくなった(22歳 無職 男性)

 

男性は両親と3人暮らし  

昔はクレジットカードの審査は今ほど厳しくなく、誰でもどこでも簡単に入手できた。

若者でも50万くらいまでは買い物ができた。カードで貴金属やブランドバックを入手し、そのまま質屋で現金に変えることは安易なことだった。

その行動を繰り返し家出人の息子はどこかで暮らしているようだ。

 

自宅にはカード利用明細書

新たに作ったカード詳細書と請求書や催促状 

質屋からの明細書

これらの書類が届く。

息子が行っていることは手に取るように分かる。

警察に相談したが事件性がないので捜査は行われない。警察署に家出届けを提出したが成人の為、同居している親でもカードの利用停止はできない。

 

限度額に達するまで待つしかない。さすがに限度額に達したらしく、カード信販会社から自宅に審査が通らないと記載された手紙が10通以上も届く様になった。

現金が尽きれば帰ってくると両親は思っていた。しかし、4か月過ぎても息子は帰ってこない。家出から1年近く過ぎていた。

そこで探偵事務所に相談することにしたとの事。疲れきった顔をした綺麗な母親が事務所にお越しになり、お話を伺った。

 

依頼人と息子が暮らす立派な一軒家。手がかりを見つける為、息子の部屋に入れてもらい隅々まで探した。

机の中にあった原宿竹下通りにある美容院の予約カード。

男性というものはそうそう美容院を変えない。原宿竹下通りの美容院を訪ねた。

美容師達に事情を話し息子の顔写真と私の名刺を渡した。

息子は先月もこの美容院に来ている。

美容師達は弱った母親の為、協力してくれることを約束してくれた。『母親が心労で病になり苦しんでいる』と大げさに言った事が協力を得られたポイントになった。

この嘘は許されるのだと私は思った。

 

2週間後、美容院から電話で情報が入った「青年がカットに来ている。息子さんに間違いないです。」私はバイクに乗り横浜の事務所から竹下通りまで高速を飛ばした。到着して間もなく息子は出てきた。

 

見つけたぞ。

 

JR 原宿駅から新宿駅、歌舞伎町の中にあるソープランドに入っていった。3時間を過ぎても少年は出てこない。私はお客を装いソープランド内に入る。息子は黒いベストに白いワイシャツ姿。働いている、間違いない。

 

今日、両親が自宅に連れ戻したとしても、またすぐに姿を消すだろう。

張り込みは続く。

ソープランドのネオンが消える。早く出てこい。

  

青年は出てくる。歩きながら大久保駅に近い古いアパートの1階の部屋に入る。

自ら鍵を開けている。間違いなさそうだ。

その後、依頼人の母親に連絡をした。

次の日、早朝からその古いアパートに張り込んだ。夕方、アパートから出てきた。鍵を自ら閉めた。昨日と同じ時間に同じソープランドに入る。住まいと勤務先はここであると確信した。

 

翌日、アパートの前で息子が出て来るまで母親と待つ。走って逃げられたとしてもまた勤務先から尾行すればいいことだ。息子が出てきた。母親が後ろから息子に声をかける。

走って逃げるかとも思ったが、親子は肩を並べてゆっくり歩き始めた。

見えなくなるまで親子の背中を見つめた。。

 

帰り道

美容院カード一枚から探し出せた。

喜びがこみ上げた。

 

半年後、母親から連絡があった。少年は家に戻り、今は運送会社に真面目に勤めているとのこと。気になっていた息子のカード借金300万円と高額な金利は父親が払ったらしい。

親からの深い愛情と立派な家と豊かな暮らし。

何が原因で家出をしたのかは誰にも分からない。

ただ息子は冒険をしたかったのかもしれない。

 

若者は大人にあこがれ旅に出る。

大人は若者に戻りたく旅に出る。